2013年2月13日水曜日

賃金が上昇するにせよしないにせよ、中国はまだしばらくの間は競争力を保つ



●フォックスコンの従業員は今年から、本当に自分たちを代表する労組を選べるようになる(写真は中国・深センにあるフォックスコンの工場生産ライン)〔AFPBB News〕


JB Press 2013.02.13(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37127

Financial Times
フォックスコンの労組が告げる「安い中国」の終焉
(2013年2月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 鄧小平は、市場改革を進める代償は、一部の人を先に金持ちにさせることだと言った。
 それから30年後、中国ではそれが現実になり、さらに多くのことが起きた。
 今、結果的に生じた所得格差を埋める1つの方法は、先行して一部の人にまた別のことをやらせることだ。
 投票である。

■自殺者続出の中国工場、7割賃上げへ

 人々に投票させることが、どのように格差を縮める助けになるのだろうか? 
 電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の富士康科技集団(フォックスコン)の台湾人の会長、郭台銘氏にご登場願おう。
 フォックスコンは今年から120万人いる従業員に、同社いわく真に従業員を代表する労働組合を投票で決めさせる。
 テレビのスター発掘番組で
 投票することが民主主義の危険な先例と考えられている中国
でこれをやろうとしているのだ。

 フォックスコンの従業員は、2014年までに1万8000人の代表を選ぶ。
 公正を保つために、このプロセスは米国の非営利団体、公正労働協会(FLA)によって監視される。

■フォックスコンの狙いは別かもしれないが・・・

 郭氏の意図は、労働組合化された労働者に付きものの賃金交渉力を従業員に与えることではないかもしれない。
 郭氏はむしろ、2010年に同社の工場で起きた一連の自殺や、劣悪な労働環境や未成年労働者の雇用にまつわる疑惑によって傷ついた会社のイメージを改善させたいと思っているのだろう。

 アップルの「iPhone(アイフォーン)」や「iPad(アイパッド)」の生産で最もよく知られる同社は昨年9月、数百人の労働者を巻き込む乱闘によって生産停止に追い込まれたこともある。

 賃金上昇は今回の対策の狙いではないかもしれないが、恐らく結果的に賃金は上昇するだろう。
 組合がなくても、工場の賃金は何年にもわたり、2ケタの上昇率を記録してきた。
 生産ラインの仕事が徐々に輝きを失い、人口動態が雇用主にとって不利になってきたからだ。

 HSBCによれば、2005年のドルで見た実質賃金は過去11年間で350%も上昇しており、他のどのアジア諸国よりもはるかに急激な上昇を示しているという。

 賃金上昇はさらに加速する可能性が高い。
 中国の生産年齢人口は昨年初めて減少に転じ、350万人減の9億3730万人となった。
 予想より4年早く到来した生産年齢人口の減少は、中国が過去30年間の急成長の最も重要な要因の1つをほぼ使い果たしたことを表している。
 すなわち新規労働者の絶え間ない流れだ。

 国家統計局の局長は、ことの重大さに見合う重々しさで
 「我々はこの事実に大きな注意を払うべきだ」
と語った。

 実際、賃金上昇は、拡大する所得格差を反転させるという共産党の目的に合致している。
 中国では、大いに私服を肥やしたと見られる人たち(その多くは共産党員)への怒りが高まっている。

 国務院は先日、貧富の差を是正するための35項目から成る計画を発表した。
 その目標には、
①.8000万人の国民を貧困から救うこと、
②.最低賃金を平均給与の少なくとも40%まで引き上げること、
③.再分配のために巨大国有企業により多くの利益を政府に還元させること
が含まれていた。

■新指導部の目的とも合致する賃金上昇

 この計画は、詳細が不足しているものの、来月国家主席に就任する習近平氏が表明した、汚職や役人の浪費を厳しく取り締まるという目的に合致している。

 習氏は、自身が率いる政府は「虎とハエ」――大物と小物の悪党――の両方を一掃し、役人の宴会では、フカヒレスープや高価な酒のような品物を禁止すると述べている。

 その多くはパフォーマンスだ。
 だが、経済的に重要な点もある。
 もし中国が、内需による成長を増やし、投資と輸出による成長を減らすことで経済のバランスを是正するつもりなら、
 中国は国民の懐にカネを入れなければならない。
 1つの明白な方法は、一般労働者の賃金が上昇するのを認めることだ。

 賃金上昇が実際に加速すれば、企業は競争力を失いたくなければ生産性を大幅に向上させなければならない。
 HSBCによれば、2011年までの5年間にはそれが起こらず、賃金上昇が生産性の向上を上回り、単位労働コストが100%余り上昇したという。

 安い中国に終止符が打たれれば、一部の労働集約的な仕事――繊維産業や低価格品の製造業の雇用――は、隣国その他の国々に向かう可能性がある
 バングラデシュ、ベトナム、タイ、メキシコのような国々が既に恩恵を受けている兆候が見られる。

 それでも、人件費がすべてではない。

 多くの製品にとって、賃金はコストのごく一部だ。
 昨年のニューヨーク・タイムズ紙の調査によれば、アップルがiPhoneを生産するために米国と同じ賃金を支払ったとすれば、1台当たりの原価が65ドル増加するという。
 アップルの高い利益率を考えると、それは管理可能かもしれない。

■価格だけではない中国の競争力

 だが実際、中国の競争力は価格だけにとどまらない。
 もっと重要なのは、エレクトロニクス産業が求める絶え間ない機能向上に後れを取らずについて行ける部品メーカーの巨大な集積地だ。

 中国の工場は柔軟性においても伝説的だ。
 ニューヨーク・タイムズ紙の調査は、iPhoneが2007年に発売を予定していたわずか数週間前に、アップルがiPhoneにプラスチック画面の代わりにガラスの画面を取り付けるために、深センにあるフォックスコンの生産ラインをどのように改修したかを説明していた。
 このような改修は、ほとんどの国では不可能だっただろう。

 もちろん、フォクスコンが本当に強力な組合が根付くのを認めれば、こうした柔軟性が危うくなる可能性はある。
 だが、非常に強力な組合、例えばストをする覚悟があるような組合は実現性に乏しい。
 労働者が時短や硬直的な労働慣行の導入を要求することもないだろう。

 実際、フォックスコンの作業現場で聞かれる労働者の一般的な不満は、自分たちが働き過ぎているということではない。
 それどころか不満の種は十分な残業時間を与えられていないことだ。
 賃金が上昇するにせよしないにせよ、中国はまだしばらくの間は競争力を保つだろう。

By David Pilling
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 「賃金が上昇するにせよしないにせよ、中国はまだしばらくの間は競争力を保つだろう」
というのは、実に意味深なのだが。
 では「しばらくの後」はどうなっていくのだろう。
 中国は競争力を徐々に失ってくるということになってしまうということなのだろうか。
 国際競争力を失ってくるということは輸出が伸び悩んでくるということになる。
 第三諸国で生産される価格競争力のあるモノが徐々に中国の国際市場を侵食し始めてくる、ということになる。
 その衰えた輸出分を国内市場でもりかえせるかどうかがポイントになるということか。




【中国海軍射撃用レーダー照射】



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